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俺たちの朝

+古都・鎌倉を舞台にした青春ドラマ+

平成15年5月1日UP




古都の海に 俺たちの朝が明けた
青春の息吹 静かな波 荒れ狂う波・・・



今から18年程前のことだった。やっとのことで大学生になり、郊外のアパートで一人暮らしを始めた頃、月曜深夜に放映されていた『俺たちの朝』の再放送を見るようになった。(元々は1976〜77年にかけて日本テレビ系列で放映)
古都・鎌倉を舞台にオッス(勝野洋)、チュウ(小倉一郎)、カーコ(長谷直美)の三人が一つの屋根の下で共同生活を始める。三人に加え、ヌケ作(秋野太作)、ツナギ(森川正太)もとても個性的で、なにより三人の間にかもし出される雰囲気になんとも言えない爽やかさがあり、オープニングの松崎しげるの歌をバックに、三人が鶴岡八幡宮の太鼓橋を渡るシーンは、今でも鮮やかに思い出すことができる。
ドラマがとても好きになり、授業のない日は鎌倉まで行って、ロケに使用された極楽寺の藁葺き屋根の家を見たり、三人が始めたジーンズ屋を見つけに小町通り周辺を歩いたりしたものだ。九州に住む今も上京する機会があると、できるだけ鎌倉に寄り、極楽寺近辺に自然に足が向くのは、このドラマの影響なのだと思う。
その後、『俺たちの朝』のことはずっと頭の中にあったが、なぜか再々放送もなく、ネットで検索をかけてもセルビデオの情報も出てこなかったが、先日再び検索をかけると「思い出ドラマ・俺たちの朝」というファンサイトがあることを知った。(ファンサイトは現在は閉鎖されています)
その掲示板でノベライズ本(四巻)が発行されていることを知り、それを読み進むと、昔見たときの記憶が甦り、断片的(ではあるが鮮烈)に覚えていたシーンがストーリーの中に組み込まれていく。小説で、活字ではあるのだが、読んでいるとオッスがどなり、カーコが怒り、チュウがうろたえる・・・そんな姿が自然に思い浮かぶ。
私の記憶の中では、「鎌倉を舞台にした爽やかなドラマ」というイメージが残っていたが、18年という歳月を経て、再びストーリーに触れると、実は、かなり難しく現実的な問題を描いたドラマであったことに気がつく。
オッスは父親が事業に失敗し、大学を中退。両親は別居していて、その中でヨットでの世界一周を目標にしている。
カーコは母親と喧嘩してしまい、独力で大学に通い染色を学ぶ。
チュウは両親と死別。姉に育てられて大学に進むが、演劇への夢を持っている。
皆それぞれハンディキャップを負いながら夢を持っている。だが、その生活は不安定である。単刀直入に言えば金が無いということ。
夢を追う、ということで「青春ドラマ」として成立するわけだが、生活を成立させ、夢を追うために、三人は現実と否応無しに直面する。ストーリーの展開を見ると、いかに「夢追い」と「現実」に折り合いをつけるか、ということがストーリー展開の鍵を握っている。
三人はそれぞれ、アルバイトにより生活しているが、それぞれの事情でうまく行かなくなり、三人共同でジーンズショップを始めるが、やがて藁葺き屋根の下宿の家賃の支払いも苦しくなり、ジーンズショップの奥に引っ越すことになる。やがてその店も行き詰まる・・・。
さらに、私が印象に残るのはチュウの演劇への夢だ。チュウはプロの演劇へうまく進むことができず、紙芝居を始める。好評ではあったが、舞台で演じることになり、紙芝居であるのに、演劇への夢を捨てきれないチュウは迫真の演技を見せてしまう。自分の姿をふと客観的に見てしまったチュウは、自分を見失ってしまう。そして、ラストに近い回では、プロになるチャンスを得ながらも、結局自分自身の才能がないために、諦めざるを得なくなる。今思えば、なんという残酷なシーンなのだろうか、と思う。
自分自身をかけながらも、その才能がないとわかったとき、人はどうすれば良いのだろうか。イイ年になった私自身でも答を出すことができない。恐らく自分だったら、時間をかけて傷を癒すことしかできないのではないだろうか。
この絶望の中、オッスは念願が叶いヨットで世界一周に出ることになる。カーコとチュウは・・・
このラストへ流れる三つのシーンは、断片的になってしまった私の記憶の中でも鮮明に甦る。「爽やかな青春ドラマ」のイメージが強いが、シリアスな部分は、しっかりと心に刻まれていたのだと思う。
『俺たちの朝』とは、実はかなり苦いドラマだったのだ。
ドラマは苦難が無ければ成立しない。とすれば、この「夢」と「現実」との折り合いというテーマは、実は最も普遍的で青春ドラマ的テーマだったのかも知れない。
だが、18年を経た私の心の中では、オッス・チュウ・カーコが怒り、笑い、じゃれあう姿が再現される。厳しい現実に直面する三人だが、その印象を薄れさせる程に、オッスは元気が良く、カーコはストレートに爽やかで、チュウちゃんは優しい。古都・鎌倉の美しい風景の中、この三人が生み出す雰囲気は、苦いテーマを忘れさせる程の爽快さと明るさと優しさがあった。いや、シリアスなテーマが底に流れていたからこそ、この雰囲気が鮮明に記憶に残っているのかも知れない。
もう一つ、このドラマの特徴であり、テーマでもあるのが、三人の関係だろう。男二人と女一人が同じ屋根の下で共同生活を営む。実は、微妙なバランスの中で生活が成り立つわけだ。三人の間には男女の友情が生まれ、実は恋愛に限りなく近いところまで接近しながらも、友情の範囲に留められる。それはお互いを思いやる気持ちがあればこそ、そうなるのだと思う。
三人が三人とも他の二人が好きで、それ故関係を崩したくない。相手を思いやるという点では最も素直で純粋な感情なのかも知れない。今の時代、この三人の関係はある意味では奇異なことかも知れないが、実は最も羨むべき感情に支えられた関係なのではないだろうか。
ノベライズの中で、オッスを初めとする男どもが憧れる小料理屋の美沙子さんが、オッス・チュウと喧嘩したカーコに「三人で暮らせることはとても羨ましい」と言い、カーコも思いなおす。美沙子さんの言う通りなのだと思う。
聞くところによると、『俺たちの朝』は、DVDで復刻されるらしい。ファンの皆さんの熱烈な声が関係者に届いたのだと思う。
今、オッス・チュー・カーコに再会して、私達はどのように感じるのだろうか?


その後、『俺たちの朝』はDVD-BOXとして発売されました。
Amazonのページはこちらから。

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